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体験会ドットコムのサイト開設を記念する連載<講師誕生~人はいかにして「教える人」になるのか>の第2回目。前回に引き続き、研修講師・講演家として多忙を極める、いとう伸さんへのインタビューをお届けします。
前回は、いとうさんがいかにして講師になったかを中心にお話をうかがいましたが、今回は、講師として経験を積み上げる中で、いとうさんが見出してきた「つかみの奥義」について、語っていただきました。研修に関わる全ての方に、ぜひお読みいただきたいと思います。(インタビュアー・上本洋子)
「つかみ」の重要性に気づく
私が出版するきっかけを作ってくださった方は、マーケティングの専門家である藤村正宏先生(フリーパレット集客研究所主宰)という方です。この方との出会いは、いろいろな意味で自分には大きかったと思っています。
私にとって、初めての講演となった異業種交流会の会場に、偶然にもその藤村先生がおられました。先生は、私の話の後で、私に近づき、こうおっしゃいました。
「やられた!本当に面白い。登壇してからの一瞬の間のあと、『私が実演販売のカリスマです。もちろん、みなさんは今日、財布をお持ちですよね?』あの第一声にやられちゃったよ。まさにつかみだね。私たち聴いている全員の隠れた心理を見透かすかのような見事なシナリオだねぇ」
実演販売のシナリオとは、みんなが心で思っているのだけど、気がついていないことを具現化することで成立します。それでお客様の心が一気に惹きつけられます。先生の分析は、そこを的確にキャッチしているわけです。まさに「つかみ」のつかみですね。そのとき以来、その重要性と自分の講師としての価値を、あらためて強烈に教えていただいた気がします。
話す前から「つかみ」は始まっている
実演販売もそうでしたが、講師という仕事もまた、「つかみ」のビジネスです。それは、話の中身だけではなく、それ以前の、自分のブランディングという地点から始まっていると思っています。
たとえば名前。私の本名は伊藤伸二ですが、すでに同名の講師もいましたので、選挙ポスターのように苗字をひらがなにして、「いとう伸」にしました。
自分の専門領域にしてもそうです。得意分野の「営業コンサルタント」という肩書きにすると、ライバルはたくさんいます。しかし、「実演販売」を肩書きや専門にしている人は調べてみたら全くいない。これでナンバー1、オンリー1になれるということで、当初は「実演販売」を前面に打ち出しました。結構考えているんですよ。
講師としての外見も、いろいろ考えました。
今は外しましたが、講師になった初期はメガネをかけていましたので、フレームもオシャレなものに変え、服装のイメージにもこだわりました。肩書はモチベーションビルダー、かつ実演販売のプロですから、観客のイメージに沿うよう、キラキラの衣装を身に着けることもあります。いかに演出すると観衆の目に付くかは常に研究しています。
さらに、キャラということも考えました。いかにも“これが実演販売だ!”という、軽妙な雰囲気を演じたのです。これもイメージ戦略で、マスコミには喜んでもらえましたし、テレビ出演のお声もかかりました。雑誌では実演販売、ツカミというテーマの新奇性から、注目されましたね。
事前の情報収集が人の心を惹きつける
さて、では実際に講演などをする際ですが、そこでも、「つかみ」のために、自分なりに試行錯誤を繰り返してきました。
そもそもアガリ症ですから、初期のころは、自分で書いたシナリオ通りの講演をしていました。企業人や経営者を対象にした講演会となると、中には固い表情で、腕組みしてこちらを見ている男性もいます。そういうとき、しゃべる側は何とか伝えたいと躍起になります。笑顔に変えたい、ウケたい、つかみたいと焦る。そうすると、必ずすべります(笑)。相手は警戒心と抵抗感を持っているわけですから。
とくに男性で経営者の方が多い会場に行くと、男性特有の、お互いの上下関係を見極めるような態度の方もいます。そこで競い合うような行動に出るとダメです。お互い意地になってしまう。相手が殻を閉じているときに無理やり働きかけても心は開きません。
そこから学んだことは、講演を行う前に極力相手の方の事情を把握しておくことです。まず講演の事前に、その会社の背景や業界の事情を調べておきます。さらに当日、1時間前には会場に入り、主催側の担当者の方に徹底的にヒアリングするのです。企業人や営業マン対象の講演だったら、受講者の平均的な所得から、現状の営業の流れ、勤務形態、経営や営業上困っていることなど聞き出します。収集したそれらの話題を、講演の出だしに挟み込むと、会場にいる方々と意識が共鳴できるのです。
さらには、講演前の控え室で、まるで念仏を唱えるように、ヒアリングした結果生まれた共感の気持ちをブツブツと声に出して読み上げるのです。例えば、保険外交員さんが集まる講演会場であれば、こんな具合です。
「いやー、皆さん、毎日のお仕事ご苦労様です。今日は皆さんの前でお話しさせていただきますが、私などは転職を重ねてきた人間で、とても皆さんのようにひとつの営業をやりきっている者ではありません。しかし皆さんは長い間この仕事に誇りを持って続けておられる。会社の理念と責任感に基づいて使命を果たす皆さんはすばらしい! 皆さんの努力に私などは及びもつきません。皆さんが一番です。本日お話しできるのは、私の拙い体験談ではありますが、なんとかみなさんのお役に立ちたいのです。ぜひ今日はこの会を盛り上げて、一体になって爆発しようじゃありませんかーッ!」
そして講演の幕が開いた瞬間、このメッセージを、会場に向かって、言葉には発せず、念を込めた視線だけで語りかけるのです。会場の全員とアイコンタクトをする気魄で、グルッと見渡してから、息を吸い込み、大きな声で「コンニチハーッ!」と呼びかけるときもあります。これを私は目力(めぢから)と呼びます。気配をみなぎらせると言葉にして発せずとも、目力によって会場に一気に伝わり、ワーっと盛り上がるのです。
そのうえで、自分としては、会場の受講者と普段一緒に同行して営業しているくらいのイメージを作りながら話しを進めます。そうしながら、講演の中で自分が体験してきたエピソードを端々に織り込み、共感性の高いストーリーに仕上げていくのです。
初期のころ自分の話したいノウハウやメッセージだけ話していた講演内容と、内容はそれほど変わらないのです。しかし、自分が伝えたいということの前に、まずどう表現するかを考え抜き、さらに相手を理解して相手の方々と意識を交えた上で出てくる言葉は、真剣さが違います。この心がけによって、私にとってのセミナーの価値は高まったと思います。それにともなって講演料も上がっていきました(笑)
ビジョンを立て、志で持続させることが大切
しかし私も、ただ漫然とこのような話術をつかんだわけではありません。交渉術やネゴシエーション、催眠療法からNLPと、あらゆる心理学的な理論やテクニック、ノウハウを学びました。マニアといってもいいくらいです。会社組織や宗教団体でも、カリスマ的な力を持った経営者や教祖がいて、理念性の高い教義やビジョンを掲げ、それに高い共感性を持つ社員や信者が支える、という構図があります。組織のモチベーションを上げるという意味で、それがいい内容であれば、社会的な意義が高いと思います。
20代からガムシャラに仕事をしてきて、自分でもよく続くなと思うときがあります。常に当事者意識と主体性を持って、自分自身を経営しているような気持ちでいなくてはならない。最近は皆さんに、こうお話ししています。会社と一緒で、1年、10年というスパンで自分自身を分析し、ビジョンを立ててください、と。それをくじけないようにするには、志(こころざし)、つまり自分の人生の経営理念が大事です。これが私から皆さんへのメッセージであり、私自身へのメッセージなのです。
私もこれまでの人生の間には、利己主義や個人主義的な考え方から失敗したり、痛い目にあったりしたこともありました。今でも志ができているかといえばできていない部分もあります。それでも普段口に出して言うことで、努力しようという意識が生まれます。反省してばかりですが、だからこそ言い続け、やり続ける意識がなくてはいけない。
実演販売の話法は高度なシナリオを必要とし、厳しい環境で鍛えられます。その中で表現・伝達することを私はずっとやってきましたが、それを受講者の方々がそれぞれの業界で応用し、使える部分は大いに活用していただきたいと思います。私の話し方が必ずしも標準というわけではありません。しかし、私が実演販売で培った、最大限に効果のある話し方の特長である、フェイスランゲージ、ボディランゲージ、目力、気配のつかみ方などは、何かしらの参考になると思います。講演や研修では、それを体験するゲームを交えて体感してもらっています。
受講者の方々も参加して主体的に学んでいただくことで、何か変わっていただければうれしく思います。日々、様々な価値観をもった人と出会い、コミュニケーションが出来ることに感謝しています。その交流から相手の活力が高まり、私もさらにモチベーションが高まります。講師としての評価よりも、そういう出会いのほうがうれしいですね。
