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サイト開設記念連載企画 講師誕生!人はいかにして「教える人」となるのか

第1回:いとう伸さん(モチベーションビルダー、武蔵野学院大学客員教授)前編

体験会ドットコムでは、サイト開設を記念し、<講師誕生~人はいかにして「教える人」になるのか>の連載をスタートいたします。

講師という職業は、単なる形式知ではない、自己の経験をベースにした「生きた知」の伝達者として、その機能は今後より重要なものとなると思われます。しかし、その職業としての実態はあまり知られておらず、「どうすればその仕事に就くことができるのか」を含め、情報はほぼ皆無に等しい状況にあります。

この連載は、現在、企業教育の最前線で活躍する講師の方々のインタビューを通して、これまでほとんど知られていなかった「講師の真実」を、より多くの方に知っていただこうとするものです。その仕事にどのようにして就いたかという、キャリア形成の部分だけでなく、受講者により深く理解してもらうために、日夜どれだけ苦労・苦心しているかといった部分まで含めて、幅広く情報提供ができればと考えています。

記念すべき第1回のゲストは、研修講師・講演家の他、コンサルタントとしても多忙を極める、いとう伸さん。営業、しかも実演販売という異色の経験からの転身の経緯や、経験を通じて体得したつかみ学の奥義など、偶然の積み重ねで講師となったプロセスを語りつくしていただきました。(インタビュアー・上本洋子)

いとう伸さん

いとう伸さんプロフィール

1962年10月14日生まれ。三重県出身。高校卒業後、コーセー化粧品販売(株)勤務。化粧品小売店のルート営業を担当。新規取引店開拓で6年連続営業コンテスト入賞(1位4回)優秀セールスマン賞連続受賞などの記録樹立。1992年長男の誕生を契機に独立。「仕事と人生に誇りを持った父親」を志す。(現在4人の父) アガリ性で赤面症ながら、実演販売業界に挑戦。延べ2000回以上の職域販売で総額5億円超の実演販売を経験すると共に、高額、高付加価値商材をワンチャンス・15分で説得する独自の販売シナリオを開発する。これまでにプロデュースした販売シナリオでの売上総額は50億円を超える。

2002年に営業専門コンサルティング会社設立。営業つかみツール「カキコミBOOK」を開発し145,000冊を超えるベストセラーとなる。2004年より、講演家として活動開始。実演販売プロデューサーという異色の経歴から生まれるユニークでパワフルな講演は、年間150本を超える依頼が殺到。2005年経済産業省後援「ドリームゲート」の年間推奨講師に選ばれ、全国で起業を目指す若者に向け、「挑戦する志」を語る。2006年1月、武蔵野学院大学客員教授に就任。モチベーションビルダーを名乗り、次世代に「夢」を実演販売している。

開催要項実演販売の世界からの転身

講師としての活動を始めたのは2004年からです。

それ以前は、化粧品メーカーの販売員として営業経験を積んだ後、1992年に独立。実演販売会社を経営していました。実演販売というのは、その場で商品を使ってみせたりして、お客様に商品を販売する仕事。しかも私の場合は、企業の中での「職域実演販売」に特化していました。デパートなどの店頭実演販売ではなく、会社の事業所の中に出向き、社員の方々が家庭用に使う健康器具や美容器具などをメーカーから委託され、私が販売シナリオを書いて売りました。また、自分の会社では、私の販売方法を実演して再現する営業マンを育ててもいました。

その頃は、お客様を集めることが大変でした。実演販売は売る対象者、見込み客を集めることと販売力がポイントです。その場限り、1回でクロージングしなくてはなりませんから、集客と販売力のどちらが欠けても売上の総量が上がらないわけです。講師の場合は、それがないだけでも有難いですね(笑)

開催要項偶然から講師業の魅力に気づく

自分自身、講師になるとは思いもよりませんでしたが、始めてみると、最初の講演の評判から、口コミで広まり依頼が増えました。研修や講演の回数は、初年度は100回、2005年に最初の本(『つかみ1秒、あと楽勝!』あさ出版)を出版してからは一気に仕事が入り、約160件の講演依頼がありました。今も月に10~12本のペースで活動をしています。

と言っても、本当に意図してこの世界に入ったのではなく、まったくの偶然です。

営業専門のコンサルティング会社を経営していた頃に開発した「カキコミBOOK」というのがあるのですが、この本を気に入ってくださった中小企業の経営者がいて、その方が「私は異業種交流会の世話人だが、この本も面白いし、あなた自身が非常にユニークだ。テーマは何でもいいから、私どもの会で1時間ほどしゃべってくれないか」とお願いされました。私は実演販売はやったことがありますが、私の話が面白いかどうかはわからない。いかがなものか……と当初は躊躇しました。

しかし是非にと頼まれ、50人ほどの中小企業の経営者の会合で「実演販売とは何か」というテーマで話したのです。すると「そんな面白い商売があるのか!」と感激されました。私にとっては、実演販売は何回もやってきたことで新鮮味もないし、昔からある商売の形態だから新規性も独自性もないと思っていたのに、参加者の方々は「面白い」と口々に言うのです。

で、講演を聴いた二人の社長からその場で「うちの会社でも講演してくれないか」と申し込まれました。さらに「いかほどですか?」と畳み掛ける。値段といっても、私は講演料の相場も知りませんから、失礼かなと思いつつ「ええ、10万円ほどでもいただければ……」と緊張してお答えしました。そうしたら「エッ、そんな額でよろしいのですか!」。私としては、そのときは1万円でも良かったのですが、社長さんにとってみれば、自分が予想した金額よりはるかに安かったのでしょうね。

正直「これはすごいな」と思いました。実演販売は多大なコストをかけてやっと場を設定し、早朝から出向き汗みどろになってしゃべってクロージングして、2~3本の契約がせいぜいの世界。それが1時間話すだけで拍手を受けて、なおかつ「先生」と呼ばれ感謝されてお金がもらえる。交通費も先方に負担いただいていますから純利益だけ。こんないい商売があるのかと驚きました。

本当にそんな不純な動機でこの世界に入りまして(笑)

開催要項自分の中にあった「教えることの喜び」

偶然にこの世界に入ったと言いましたが、しかし実際には、物事には因果があります。振り返ると、小学生のときの将来の夢は、学校の先生だったのですね。学級委員も1年から6年までやりましたし、生徒会会長にもなりました。世話人役をやりながら非常に喜びを感じていました。教えることが好きだったし、人をまとめて、自分の伝えたいことを表現することに喜びを感じていました。

実演販売会社には20人ほどの営業マンがいましたが、彼らに仕事を教えるときに、大変な喜びがありました。実演販売の仕事ですから、そういう経験者はなかなか来ません。「私はできます」と豪語していた営業経験者を雇い入れても、うまくいきませんでした。

営業といっても幅広く、ドアツードアの営業もあれば、ルート営業もある。しかし、実演販売というワンチャンス・短時間・初対面の勝負という世界では、かつての成功体験がマイナスに出ます。自己流にこだわってしまうと、15分間で、最高の状態を再現できるというシナリオが崩れてしまいます。

求人を出したときも、20代前半で営業・接客未経験の方を募集しました。人前でしゃべることはたいていの日本人が苦手。その意識を取り払って、未経験者にイロハから教えなくてはいけません。

同時に、大抵の日本人は自分の中にコミュニティの中で刷り込まれた「こうでなくてはいけない」「こうあるべきだ」というしばりを持っていますが、それは極めて狭い標準です。それを崩さなくてはいけない。心の枷が外れたたとき、短時間の実演販売でも、決まったシナリオですが効果的に表現できるようになる。

私はそれを新人社員にずっと教えていく中で、人が成長することに喜びを感じていました。振り返ってみるとそれも講師になった要因だったのかなと思います。

開催要項「期待以上の価値を生む」ことがモチベーション

実は私は大変なアガリ症です。しかし、講師として目的があるときはあがらない。

最初に考えるのは対象者が誰か、ということです。目的が明確ですといくらでもしゃべれます。しかし、目的がどこのゴールを目指しているかがわからないとしゃべれなくなってしまう。今日はどんな人が集まっていて、その人たちに主催者として何を伝えたいのか、今どんな現状なのか、ヒアリングすることによって、その人たちの困っていることとか悩んでいること、目指したいことなど、いろんなものが見えたら、私は場と一体化でき、緊張を乗り越えられます。舞台に上がった役者のようなものです。

講師という仕事で世の中に認知されるようになったのも、そういうコンプレックスを乗り越えようとしたからだと思います。なぜ表現ができないのか、人前に立つと赤くなってしまうのか、なぜ自分をつくろってしまうのか。こういうフラストレーションがあって、それを打開したいという意識があった。壇上に上がるなど、本当はとんでもないと思うのですが、自分を追い込まねばと。

基本的に、自分のモチベーションは仕事そのものからしか沸いてきません。どんな仕事であれ、いただける報酬に対して、商品を買ったお客様や講演を聴いた方々、講演依頼者に対し、その期待を大きく上回る価値を提供したいのです。

お客様の反応は、お褒めの言葉をいただくときでも、社交辞令なのか本心なのか、敏感にわかります。価格と価値の関係が、期待以上のレベルに達したときに、私はモチベーションが沸きます。

講演の場合、参加した方々が2時間か4時間、自分の時間とエネルギーを投資しています。会社命令で来た方でも、時間を投資しているわけですから、対価を払っているわけです。その対価以上の価値が、講演が終わったときの拍手や表情、感想のお手紙やメールなど全部含めて、自分の中のモノサシでのルールが守れると、モチベーションが上がるのです。
(後編に続く)

※今回は、いとうさんが講師となるまでの経緯などが中心でしたが、次回は、「つかみ」のプロであるいとうさんが、これまでの講師経験の中で体得した「聴衆の心をつかむ奥義」を語っていただく予定です。お楽しみに。