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サイト開設を記念し、連載スタートした<講師誕生~人はいかにして「教える人」になるのか>の第7回目。
今回は、バリアフリー旅行の第一人者であると同時に、サービスの本質を鋭く説き明かす講演家としても著名な、高萩徳宗さんのインタビューの最終回です。
波瀾万丈の青年時代を経て設立した旅行会社の「その後」のお話に加え、講演家としての高萩さんが、どんなことを大切にして活動されているか、じっくりと語っていただきました。(インタビュアー・根本英明)
高萩徳宗(たかはぎのりとし)さんプロフィール
障害がある方やご高齢の方と一緒に年間100日以上旅をするバリアフリー旅行の第一人者。
お客さまを弱者と捉えるのではない、サービスの視点でお体が不自由なお客さまがなかなか足を運べない場所への旅を積極的に企画。
一方では、07年まで5年連続でホノルルマラソンチャレンジツアーを企画し、自らもフルマラソンを走るなどユニバーサルデザイン発想のユニークな企画も実施している。
旅が大好きな人なら誰でも会員になれる、会員制旅行倶楽部「くらぶベルテンポ」を運営。
年齢や障害の有無に関係なく、旅ができる社会環境を作ることを目指して、常にお客さまへの「究極のサービス」を提供することにこだわり続ける。
コンサルタントとしても“おまけや値引きはサービスじゃない”など、従来のサービス感とは異なる角度からサービスの本質を提言。大手企業から自治体まで、サービスの伝道師として幅広く講演、研修、セミナー等を実施。全国の企業での講演、研修多数。また、旅行会社、観光施設などのバリアフリー&サービスコンサルタントとしても活動。新潟県、熊本県、三重県、秋田県などの各自治体をはじめ、ホテル、航空、鉄道、建設会社等の多種多様な民間企業でも講演や研修を行っている。
小さな紹介記事から会社の電話が鳴り続けた
結局、なぜ独立したかというと、サラリーマンに向いていなかったからです。ベンチャースピリットというより、旅が大好きで、旅をしたいという人が目の前に集まって、旅に行きたいというときにそれをかなえる方法を自分は知っていた。会社をつくればうまくいく、夢はかなうとしか思ってなかった。
起業したときは1ルームマンションから始めました。日本旅行時代にアルバイトしていた若い女性がいて、彼女が次の職を探しているタイミングで手伝ってくれることになりました。私のイメージとしては障害者の人たちが楽しい旅行ができて、それで自分たちの給料が出るくらいでいいやと思っていた。欲がないですから。
ある日それを聞きつけた読売新聞の記者が取材に来てくれました。こじんまりやっていて可哀想だと思われたのかもしれません。全国版に、小さなベタ記事を書いてくれたんですね。こういう変わった旅行会社がオープンしたという話題です。
掲載日の朝、載るということすら忘れていたのですが、早い時間から事務所の電話が鳴り始めました。「新聞読みました」というお客さまでした。あわてて見たら記事があって、その日は電話が鳴りっぱなし。その後1週間くらい150件くらい問い合わせが続き、記事を見たお客さまからいただいたオーダーが、初期の売上のすべてでした。
たまたま昨日コーディネートした山梨の桃の花見ツアーにも、当初からのお客さまが来てくれました。もう8年半のお付き合いになります。「あの新聞記事が人生を変えた」と言ってくださるお客さまもいますし、あの記事がなければ旅行に行くこともなかったと、ありがたい言葉を頂戴しています。新聞記事が神風になってくれた。
本の出版をきっかけに旅館組合から講演依頼
それから、たまたま実業之日本社に20年来の旅仲間がいて、アドバイスしてくれました。
1つは、会社名の後ろに“コンサルタンツ”と付けておけと言われたこと。社名は当初「ベルテンポ・トラベル」で登記しようと思っていたのですが、「お前のやろうとしていることはこれから絶対世の中に必要になるから、コンサルタンツと付けろ」と。そのときは深い意味もわからなかったのですが、そのようにしました。
もう1つアドバイスされたのが「君にはそのうち何か話して欲しいという依頼が来る。僕が編集するからそのために本を1冊書いておけ」ということ。それで会社の設立年に『バリアフリーの旅を創る』を出版しました。
出版の効果もあって、初めて講演の依頼があったのは、ある旅館組合からです。旅館もこれから高齢化社会に向けてやらなければいけないことがあるのはわかっているけど、何から手を付けていいかわからない、ついては集会があるから話してくれないかと頼まれました。無報酬でしたが、本を買って参加者に1冊ずつ配ってあげるといわれました。150人くらいの社長さんの前で、池袋のホテルで講演したのが平成11年です。
そのときお話したのは、私が会社を運営していくなかで、お客さまがどういう気持ちで旅行に行きたいと思っているか、あるいはなぜ旅行できないでいるかということ。トラベルコーディネーターとしてお客さまと一緒に旅行するときは、単なる添乗員ではなく寝食を共にします。お客さまが病気をしてから旅をあきらめている日々がどんな毎日かというと、身体の自由が利かないと、長生きしていることに心の豊かさを感じないと、多くのお客さまが思っているのです。ですが、旅行に行けるということがわかるだけで、朝目が覚めるときに活力が違うんだよと言ってくださる。そういう声も旅館に届けるわけです。
旅館にお客さまが来ないのは不景気だからじゃなくて、声をかなえるしくみができていないから。お金は持っている、旅行には行きたい。だけど旅館がつくっているバリアがいくつもある。和室に畳では、布団に寝られない人は選択肢から外れる。和室でもベッドを置けばいいではないですか。食事も、量が多く脂っこい宴会料理をイメージしてしまい、旅館はあきらめ、やむなくホテルに泊まる高齢のお客さまもいます。旅館には泊まりたいお客さまはいるけど、旅館がそれを拒んでいるというお話をさせていただきました。
それが旅館の主人にはショッキングだったみたいです。大体講師が話すことといえば「21世紀のマーケティング分析」「訪日外国人観光客の受け入れ方」ですとか、「おもてなしのイロハ」になります。でもそれはお客さまの声ではない。供給側の想定する都合です。コンサルティング会社は市場調査を分析したものを届けて「これを実践すれば売上があがる」というのですが、皆さん頭ではわかっても行動に起こせない。次に自分がどうすればいいか具体的な指針が見えてきません。
「心のバリア」を取り除くことの大切さ
私の場合、話を聞いてくださった方が明日何をすればいいか具体的に助言をしてさしあげます。それは「心のバリア」を取り除くことです。
設備投資はしなくてもいい。バリアフリー改修はお金がかかります。スロープ1つでも費用対効果を考えなくてはなりません。それは儲かり始めてからでいいので、まずは、ホームページやパンフレットに「私たちはご高齢の方を受け入れますので、ご希望されることがあったら何なりとお申し付けください」というメッセージを出すこと。そこで「食事の好き嫌いやお好みがありましたら承ります」「バリアフリーではありませんが、お足元の悪い方は相談ください」と一言書くだけでいい。そうすると「この旅館は何か違うぞ」と思ってもらえるはずです。いずれもお金をかけなくてもできることです。お客さまは料理が半分でよくても、値下げしろとは言っていません。
このようなお客さまの声を伝えたことが、旅館の方々の勇気にもなっているようです。そのときの参加者の社長さんとは今でも長くお付き合いさせていただいています。私たちのかけがえのないパートナーとなってくれました。いまは観光協会や自治体からの講演依頼が多いですね。一企業というより地域で取り組む問題と考えられています。
また、そうした場では「首都圏などから高齢者の方をより多く迎えるにはどうしたらいいか」とよく聞かれますが、そう聞かれたら「すみません。街を半日歩いてもお年寄りを見かけません。この地域のお年寄りはどこに行ったんですか」と、逆に聞くようにしています。そうすると「たぶん家にいると思います。デイサービスかもしれません…」と皆さんうつむいて答えます。地域のお年寄りが幸せでないようなところに、首都圏の高齢者はやって来ません。まずそこに住んでいる人をもてなしてあげて、地元の高齢者を元気にするのが順序でないですかと申しあげます。もちろんやり方も伝授するのですが、そうすると目からウロコが落ちる。意外と世の中のサービス業の人たちは、お客さまの声が聞こえていないのです。
やがて、これは旅行業や観光業に限らず、普遍的にいえることだと気がついた。それも私のセミナーをたまたま聴講した明日香出版の編集者の助言がきっかけです。「高萩さんの話を体系化して、悩めるサービス業の人たちに向けて出版してはどうか」といわれたのが平成15年。それが『サービスの教科書』です。それまでバリアフリーの講演しかしなかったのが、以降はサービス関連の講演依頼が増えました。
自分はあまり欲がないのですが、私を見ている周りの人が「こいつの言っていることをこの人に聞かせたい」とか「世に広めるべきだ」と思ってくれる人が現れてくれる。それが講演活動につながっていきました。
講演は自分を育てた社会への恩返し
1年に100日添乗に出て、講演は60日くらいです。ちょうど1年の半分は、出かけたり話したり、外に行っています。講師をやっているほうが利益率も高いでしょうが、旅行の体験があってお客さまとの時間があるからお話ができているので、順序としては旅行の仕事からですね。講演の依頼も喜んでお引き受けしていますし、役目だと思います。
話が嫌いなのに、なぜ講演活動をやっているかというと、自分が人生で経験してきたことが、ほかの人はなかなか体験できないことだったからではないでしょうか。私の体験やお客さまの体験や人生が伝わって、聞いている人が自信を持てたらいいと思います。人生を頑張っているそれぞれの人たちが「自分がやっていることは間違いないんだ」と誇りを取り戻して、明日から気持ちを新たに行動してもらいたい。これが私の伝えたいことです。
皆さん迷っているから、軸がぶれてしまう。サービス業でも今聞こえてくる声がクレームや曲がった異見で振り回されることがあります。その場合は、なぜ仕事を続けられているか、私の話をきっかけに、自らの軸を振り返っていただきたいです。自分の仕事を再確認し、見直す機会になってくれればと思います。
講演は人生の恩返し。私が生きてこられたのも、さまざまな局面でダメになりかけたとき、応援してくれる方々がいたから。特に社会にこだわっていて、今の日本の社会が変だとみなが思っているのだったら、評論家みたいなことを言わず、この社会をどう動かしていくかをそれぞれの立場でできることを前に進めていけたらいいではないですか。それは育ててくれた社会への恩返しだと思います。
小さい頃は貧乏で父がいない家庭で育ち、母が子ども3人を一所懸命育て上げてくれました。中学校3年まで生活保護を受けていました。あるとき通帳の残高が350円しかなくて、夕食のおかずを買ったら終わりだなというときがあり、私がその300円で買い物に行ったことがあります。野菜などを買ったら、肉屋さんに行くとき50円しか残っていない。なじみの店で、一番安いレバーが50グラムしか買えなかった。そのできごとは今でもよく覚えていますけど、母はその日「もうだめだ。今日で終わりだ」と思ったらしいです。
母もすごく頑張ったのだけれども、地域の人たちがうちを支えていてくれた。民生委員さんやご近所さんも、うちが貧乏なのは知っていたからおすそ分けをしてくれたり。社会の支えがあったから自分も大人になれたし、大人になってからも、自分の周りの多くの人が助言してくれた。
ですから、会社の運営によって、どれだけ社会に恩返しができるかが最も重要です。欲はあまりないのですが、会社を大きくすることはより多くの人に恩返しをすることにつながるので、もう少し売上を増やしてより多くの人に知ってもらいたい。そういう意味で、普通の講師の方々とは思いが違うかもしれません。
旅行に行った方、講演に来てくださった方の両方から「今まで自信を失ってたけど、これで明日からまた頑張れます」というメールがよく届きます。講師も旅行業も一緒なんだなと思いますね。聞いてくださった方がどう変化してくれるかが大事です。
若者に「働く意味」を問い直せ
夢をかなえるとか自己実現とかいう自己啓発本が最近流行りですが、感心しません。今の若い人に、好き勝手だけやりなさいというメッセージだけ伝えたらダメですよね。
ベルテンポにも就職志望者が年中きます。「私がやりたいと思う仕事が見つかりました。ついては雇ってください」という短絡的な連絡が多い。そういう若者には、意地悪ですが「あなたの夢はお客さまには関係ない話。お客さまは自分が心地よい安全で安心な旅行に行きたいと思っているだけで、そのためにあなたは何ができるのか伝えて欲しい」と質問します。最初の1年間はトイレ掃除、雑用だけお願いしますというと嫌がるんですよね。「それは私がやりたいことじゃない」と。でも、そういう人を増やしてしまったのは、われわれ社会人の先輩の責任だと思います。
よしんば最初は自己満足でもいいとしても、人様に幸せを提供した結果、対価をいただいて、それが自分のやりたいことにつながってやりきること。そうすると少しは人間として成長するのではないかと思います。その1つ上の概念が、使命というか、社会実現だと考えます。自分のやっていることが回りまわって社会に影響力を及ぼしていることを実感できる状態。そうなると好き嫌いややりがいという領域を突き抜けて、本当に天にやらされているとか、生かされている境地ではないでしょうか。
鉄道会社なら、保線区で終電後に砂利を固めている作業者にとって、その仕事の好き嫌いは問題じゃないですよ。線路は2ミリ下に落ちていても乗り心地にすごく影響するといいます。保線区の作業者は、普通の人は気が付かないことを直して、乗り心地を良くしているのだと思うと、誇りを感じるというのです。
目に見えない仕事こそ尊い。そういう人には「あなたの存在はお客さまがだれも知らないだろう。だけど、君がいるから鉄道がちゃんと動いていて運転士さんは安心して運転できる。お客さまも切符を買って何事もなく移動できている。空気のようなサービスができていることの一翼を担っている」、こう言ってあげるだけで頑張れるんですよ。それはやはり使命感ですよね。社会がその仕事を必要として、一所懸命それを果たしている人にも大きな役割がある。そういう真実を20歳の人に気づかせてあげるのが、われわれの役割です。
人事や研修担当の方も、やりがいとか自己実現を強調して、若い人に迎合したり気を遣ったりしている。それはどうかと思います。仕事することは大変なものであって、楽しいことばかりでもない。人生は齢と経験を積まなくては得られないことがある。私はそれをお客さまから学んできました。若い人にも気が付いてほしいことで、それを伝える人が必要なのだと思います。金銭的な成功を求める野心も結構ですが、お金では買えない大事なものもあるということも、その1つですね。
